いつかどこかで…
ドアを開けると、この家の香がする。優しい香がする。

全てに奥さんの存在を感じる。でも明かりを付けた部屋は、雑然として謙吾一人の寂しい生活を照らしだした。


散らばった服を集めながら、足でリモコンや雑誌を端に避けた。


『汚くしてたの忘れてた…ごめん。ここ座って。』


ソファーがやっと姿を現した。


ちょこんと掛けてキョロキョロ。


謙吾の家。奥さんがいて、赤ちゃんが生まれた家。


一人は寂しいね。


散らかってるけど、素敵な家だ。白い壁紙、暖かい色のドア。フローリング。対面キッチン。


二人で決めたんだろうな。


謙吾…辛いのかな。


『はあ。だいたい片付けたぞ!他の部屋も見る?』


私は首を横に振った。


『酔いを覚まして、送るから。コーヒー入れる』


『謙吾、どこに引っ越すの?』


『まだ決まってない。理沙ん家の近くにアパートないかな?』


『え〜。近くに来るの??』

カップを並べながら、よろける謙吾。


『なんだよ。その…あからさまな態度は』


部屋に漂うコーヒーのいい香り。
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