きみへのおくりもの
朝の満員電車ー
和也はおしくらまんじゅうに遭いながらも、何とか吊革に捕まってふんばっていた。
目の前には開成高校の制服を着た学生がシートに座って、両耳にウォークマンのイヤホンをつけて参考書を読んでいる。
電車の中でも勉強なんて・・・やっぱり開成のヤツは、俺らとは頭のできが違うんだろうなぁ。
和也はそんなことを思いながら一つ長い欠伸をした。
「ほんまに・・・すごいおしくらまんじゅうやわ」
右側に立っている白髪の婆さんが独り言のように呟いた。
みると、額に大粒の汗をかいて顔色も蒼白している。
「大丈夫か」
ばあさんは虚ろな目で軽く頷くのが精一杯。
「おい、席代わってやれよ」
目の前の学生の耳からイヤホンを取った。
上目遣いでじろりと睨み付けてくる学生。
「ばあさんと代わってやってくれないか」
「何で?ここシルバーシートじゃないけど・・・」
「はぁ?いいから代わってやれよ」
「何で僕だけに言うのっ」 和也は学生の両隣に座るサラリーマン風の男に目配せした。
しかし、和也と目が合うと、右側の男は寝た振りを始めた。左側の男はと言えば、新聞で顔を隠した。
これが大人かよ・・・ 「いいから代わってくれ」
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