きみへのおくりもの
倒する。
「す・・すみません・・・勘弁して下さい」
荒く呼吸しつつ、平謝りするひったくり野郎。
和也は男の手からバックを奪い返し、無言で立ち上がった。
そこに彼女が走ってきた。
和也の前で足を止め、軽く頭を下げて乱れた呼吸を整えている。
近くで見ると、彼女はとても整ったきれいな顔立ちをしていた。
白いブラウスが色とりどりの洋装の中雑踏の中だけあって、際立って清楚に見える。
思わず見惚れてしまった。
その隙を見て、ひったくり野郎が忍び足で体勢を立て直す。気付くいとまもないうちに絶妙なクラウチング・スタートを切った。
「あっ、待て!」
「もういいです」
追いかけようとする和也をようやく聞くことができた彼女の声がひき止めた。
「大丈夫ですか?顔・・・」
「え? あーこれね。大丈夫、いつものことだから」
多分姉貴に殴られた頬が腫れてんだろう。
彼女は言葉の意味が理解できなかったのか、首をやや傾けてきょとんとしている。
「さっき姉貴に殴られたんだ。スッピンお化けのパンチは親父のよりもきくよ」
彼女が和也の言葉に、ふふふっと子供ぽく笑った。

ふたりはバス停までの道のりを一緒に戻るようにして歩いた。

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