きみへのおくりもの
との方が先決事項だ。
そして、バスが到着する。
「それじゃ・・・」
言って、彼女がバスに乗った。
「あっ」
和也が声を漏らした途端、彼女が振り向く。
しかし、扉はシューっという音をたてて閉まってしまった。
近くの席の窓をそそくさと開ける彼女。
和也もその窓に寄った。「名前・・・聞いてなかった」「わたしの・・・?」
「うん」
「中根 加里奈・・・あなたは?」
バスが走り出した。
バスと一緒に走りだす和也。
「俺・・・山下ー和也ー!」
大声で叫んだ。
加里奈は窓から小さく手を降っている。
バスは段々と遠ざかって行き、とうとう見えなくなってしまった。
あ〜あ、行っちゃた・・・何で名前なんか聞いたんだろう。連絡先聞かなかったらもう会えねぇーじゃんー。
「チクショー!」
和也は加里奈と会える手段を失い、苛立ちをぶつけるように転がっていた空き缶をおもいっきり蹴り上げた。

もうホントに逢えないのかな〜
その現実だけがいつまでも和也の胸の中で停留しており、遭いたいという気持ちを殊更にくすぶらせる。
こんなにも切実に、街中で出逢った女性に遭いたいって思ったのは、初めてのような気がする。
だけど・・だから・・忘れられない。

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