[SSS~SS集] 曖昧エレジー
◆リスカ中毒
( @: カオスなSS)
「コレ、リスカですよね?」
不自然な傷跡がたくさんついた私の左手首を見て、不思議そうに首を傾げた後輩。
「他人には関係ない。」
自傷行為が愚かなことだとわかってるからこそ、私はそう冷たく言い返す。
「確かに関係ないですけど。自傷行為は無意味ですよ。」
「…だから?」
ただ、イラついて。
思い通りに進まない現実にムカついて。
そんな自分が大嫌いで。
まるで罰でも与えるように、私は手首に紅い線を引き続けた。
でも、無意味なこともわかってる。
わかってるけど傷つけ続けるのはきっと、ある種の中毒なのかもしれない。
「…自殺願望あるんですか?」
「ない。…今は。」
「あったんですか?昔は。」
「…多少。」
きっと、多少はあった。
ただ、私には勇気がなくて。ナイフを深く突き刺す勇気が、どうしても…
だから私の傷は、浅くて多い。治りかけて薄くなった傷跡の上に走る、新しい紅…。くだらない、止まらないエンドレス。
「あの、思うんですけどー」
微妙な静寂を破るように、相変わらず間延びした話し方で話し始めた彼の声に耳を傾けた。
「もうやめたらどうですか、コレ。先輩はただ、誰かに止めて欲しいんでしょー?自分じゃ止められないから。」
「……え?」
私に有無を言わせず放たれる言葉に、思わず眉が寄る。
…でも。
「誰かにやめろって言って欲しいんですよ、先輩は。だから言ってあげます。……リスカなんてもうやめろ。」
彼の言葉には、妙な安心感とともに、不思議な説得力があった。
私はきっと彼が言うように、止めて欲しかったんだ、誰かに。愚かなことを続けるあたしを、壊れかけたあたしを…
…そして、
「切ったって、傷跡以外何にも残らないじゃないですか。」
向けられた優しい笑顔と、そっと傷に触れた彼の指先…。ぬくもりが伝わってくるのとともに、何故か涙が溢れた。
リスカ中毒
( 壊れていたのは身体じゃなくて )
( 心の方だった )