[SSS~SS集] 曖昧エレジー
◆たった一言の効果
( @:SS )
「基本的にあたし、“頑張る”とか、“努力”とかの意味、わかんないんだよね。ましてや“Never give up.”だなんて言葉、本気で大っ嫌い。」
昔から、誰かと比較されることが嫌いだった。でもそれでいて、その誰かに負けるのが何よりもイヤだった。
人一倍負けず嫌いで意地っ張り。
そのはずなのに、“頑張る”ことの意味も“努力”する事の意味もわからないなんて、滑稽すぎて笑える。
「他人からの“頑張れ”って言葉が、常に痛いんだよ。グサって心に刺さる。その人に悪意がなくても、善意だとしても、あたしにとって鋭いナイフと変わりはない。」
言葉を向けられる度、追いつめられていくのはあたし。
周囲の思いがあたし自身の思いより大きくて、気づいたときにはもう、何をすべきかなんてわからなくなっていた。
くだらないプライドに縋り続けるあたしも、結局は馬鹿なのだ。
「ツラいというか、何か悔しい。」
そこまで話したあたしは、目の前にある、すでに冷めきったコーヒーに口を付けた。
普段ブラックなんて飲まないからか、慣れない苦さが口に残る。
「…あのー、先輩。俺思うんですけどー、先輩は深く考えすぎですー。」
不意に口を開いたのは、さっきからずっとあたしの前に座っている後輩。彼の瞳に視線を移せば、彼は控えめな笑みを浮かべる。
―――そして。
「頑張るとか努力とかって、そんな気張るものじゃないと思うんですよね。
結局、先輩は誰かに“大丈夫”って、そう一言、言って欲しかっただけなんですよー。」
向けられた笑顔と続けられた言葉に、ほんの少しだけ気持ちがラクになった気がした。
でもそれと同時に、見透かされた心がちくりと痛んだ。
たった一言の効果
(“大丈夫”)
( その一言で )
( 安心させて )