[SSS~SS集] 曖昧エレジー
◆嘘でいい、好きだと言って
( @:SS )
「好き、だよ。」
長く揺れる前髪、ぎゅっと私を抱き締めそう囁く彼はきっと、いや確実に、私よりも嘘吐きだ。
「……本当に、私のことが好き?」
「当たり前。今更、何言ってんの?」
ほら、また…
私のことなんて、好きじゃないくせに。
彼はまた、そんな言葉を私に紡ぐ。
そして、そう言い放つとともに強まった抱き締める力。先ほどよりも、より強く鼻腔を擽る彼の香水の匂いに、思わず苦笑が漏れた。
「…私も好きよ、あなたが。」
「知ってる、そんなこと。」
こんな言葉の交わし合いなど、何の意味も無いのに。中身の詰まっていない空っぽの言葉なんて、上辺だけでしかないのに。全てが私の、空回りなのに。
これからも続くのであろうこの偽りの関係に、生温かいものが頬を伝った。
「え、ちょ…。いきなり、何泣いてんの?」
「…泣いてなんかいない。」
「嘘つき。」
抱き締められていた体が離れ、彼の右手は私の涙を拭う。けれど困ったような彼の笑みに、余計涙は流れ出て。
「泣かないでよ。君に泣かれると、どうしたらいいかわからなくなる。」
…どうも、しなくたっていい。
ただ、私だけを見て。
言葉だけじゃなく、心から。
心から私を、好きになってよ。
そんな言いたい言葉を全て、ため息とともに吐き出した。
そして、ただ一言――…
「…もう一度、抱き締めて。」
今以上の関係は望まないから。
あなたが傍にいてくれるだけで良いから。
嘘吐きのままで構わないから。
…――だから。
今はこのまま、温もりを感じさせていて。
たとえあなたの優しさが、言葉が、想いが、私へのものじゃないとしても――…
嘘でいい、好きだと言って
( たとえ嘘だとしても )
(“あなたがいる”)
( それが私の“真実”だから )