僕は君のために口笛を吹く
『−…この家の主だった陽助(ようすけ)さんはいつも人のために行動してた。
彼はいつも人のために行動してたらしく勤めていた会社でも、大きな信頼を得ていたらしい。
だからだろうな−…。
この樋月(ひづき)の家でも、中心にいた。
おっちょこちょいな百合子(ゆりこ)さん、お前がさっき挨拶した女の人も頼ってた……すごく。
この家の3人にとって、…欠けちゃいけないものだったんだ。』
つきさんは静かに話していた。私とは目を合わせずに、窓の外ばかりを見ていた。
それから、部屋にこもる森也(しんや)さんの事、ふさぎ込んだ哲志(さとし)さんの事など、色々聞いた。
一番の問題は、母親の百合子さんだった。
確かに、辛いのはわかる。でも…ご飯も、洗濯も、全てを担わずにいるのはおかしい筈だよ。
……自分の子供も忘れちゃうのは…
「…絶対だめ…!!」
『…え…?』
「あ…!」
口に出しちゃった。でも…、こんなにムキになるなんて…。
私…。
私が…!
……ワスレテホシクナカッタカラ…?
その瞬間、糸が切れたように、涙が−…。
『…ひ、ひかる!?』
「…あ、あれ…?つきさん…わ、たし…」
怖い…。恐い…。強い…。こわい…。
そう…。
…………コワイノ…………!!
ふわりと何かに包まれた。
温かい…。
つきさんか…。
おかしいな…今朝は触れなかったのに…。
私はそのまま、溶けるように眠りにおちた−…。