僕は君のために口笛を吹く
「森也(しんや)さん、おはよう」
「おはよう、ひかる。」
哲志の三つ上の兄貴、森也。
しっかり者で、大学入試に向けて頑張っているようだ。
「…おばさんは?」
「もう仕事に行ったよ。」
おばさんとは樋月家の女主。
ひかるが下をむく。
血も繋がっていないのに、私の学費を…。
考えてるのはそんなとこだろう。
ひかるはそういうのに敏感なんだ。
生まれ方が悪すぎた。
愛され方を知らないためか、逆に愛し方にまでうとい。
ただ…彼女には、見た目以上の魅力がある。
…幸せに、なれる筈さ…。
…でも、そうしたら、俺のことはきっと…。
「ねぇ、つき!」
ハッとした。
目線を上げると、ひかるがいつの間にか準備してしまっていた。
「あたし、もう行くよ?」
『あぁ、うん。いってらっしゃい。』
少し不安気な瞳を打ち消すように、急いで微笑んだ。
誰にも見えない俺の姿。
彼女以外にも、俺の姿を目に写したひとがいた。
…彼女にも、光がなかったから。
閉まりゆくドア。
小さくなっていくひかる。
いつかは俺の前から本当に消えてしまう。
『…誰か…。』
ボソリと助けを呼んだ。