no title
「じゃあ改めまして、林道奏でっす!!宜しくっ」
そう言うと、林道は私に笑顔を向けた。
にこり、と言う効果音が似合うような、満面の笑み。
さっきのことを思ってか、手は差し出されていない。
りんどう、かなで。
頭の中で、その名前を繰り返す。
奏、林道奏。暗めの茶髪の、小柄な男の子。
多分、優しい人、なんだと思う。
「…葉波、希々です」
掴んでいた賢太の腕を離し、顔だけを林道に向ける。
名前を言うだけの、ごく在り来りな自己紹介。
そんな私の言葉を、林道は嫌な顔1つせず聞いている。
「へー、"はなみ"って言うんだぁ。どんな字書くの?」
「えっと…」
にこり、と笑顔を浮かべ、そう問う林道。
えっと、どう説明すればいいんだろう…。
どうしよう、と賢太を見る。
賢太はただ、優しい微笑みを讃え、私たちを見守るだけだった。
「……その…、葉っぱの"葉"に、波風の"波"で葉波、希望の"希"を2つ並べて、希々、です」
賢明に考えた結果、私の口から出てきたのは在り来りの在り来り、寧ろ分かってもらえないかもしれない表現。
変な、名前ですよね。
そう言って小さく笑うと、林道は笑って首を横に降る。
そんなことはないよ、と。
「俺の名前なんて、女の子みたいだぜっ」
名前だけだと、よく女の子に間違われるんだ。
そう言って笑う林道に、思わず笑みが零れた。
あぁ、やっぱりこの人は、優しい人だ。
さっきまでの林道に対しての恐怖心は、私の中で、少しずつ小さくなっている、気がする。