no title
ガタリと椅子を引いた。
鞄を机の横にかけ、席に着く。
「………男ばっかり」
「そうだなぁ」
体をこちらに向け、椅子に座る賢太。
賢太と話している間も、私へ向けられる視線は止まない。
そんなに、女子生徒が珍しいのだろうか。
教室の色々な場所や、廊下からこちらを見ている。
…嫌、だなぁ。
そう呟くと、賢太の表情が困ったように歪んだ。
「……はぁあ…、」
本日、何度目かも分からない溜め息を吐く。
机にぐでんと突っ伏し、目を閉た。
ざわざわと煩い真っ暗な世界の中、まぁ頑張ろうぜ、と言う賢太の声が聞こえる。
一一あぁ、今日はなんだか疲れた。
いや、まだ始まったばっかりなんだけど。
担任が来るまで少し時間があるらしいし、少し、寝ようかな。
賢太なら、起こしてくれるだろう。
そう思って、眠ろうとした時。
「ねぇねぇねぇっ!」
後ろから聞こえた大きな声に、びくりと肩が跳ねる。
あぁ、もうやだ。
本当に男ばっかり。
「ねぇ、ねぇってば!」
ざわざわと煩い教室の中、他の男より幾分か高いその声は、私の耳に煩い程よく届いた。
いや、私の真後ろにいるから、よく聞こえて当たり前なんだけど。
とにかく、耳障りだ。
あぁ、早く帰りたい。
「……希々、」
「…ん…?」
賢太が私の名前を呼んだ。
……もう、先生でも来たのかな。
そう思って顔を上げると、苦笑している賢太が私のぼやけた視界に入った。
「…呼んでるぞ」
大丈夫か…?そう心配したように聞く賢太が、私の後ろを指指した。
ゆっくりと振り返る。
「……っあ、」
にこにこと笑う、暗めの茶髪。
その視線は、確かに私を捕らえていて。
ぴしり。
時が止まった気がした。