no title
 


差し出された、賢太より小さい掌。

それをどうすればいいのか分からず、その人の顔、
林道の顔と掌を、交互に見た。



「…え、っと…」


「んー?」



冷たい両手を、胸の前でぎゅっと握る。

何、この人。

思わず涙が溢れてくる。
じわり、と滲んで歪む視界。



「えっ、ちょ…!?泣かせちゃった!!?」


「……希々、」


「けんっ、た…!」



あたふたと慌て始める林道を余所に、苦笑を浮かべている賢太に手を伸ばす。
すると、顔真っ青だぞ?と賢太の掌が私の頭を撫でた。

その腕を強く握り、林道を見る。

林道の表情は心配そうに、悲しそうに歪んでいて。
…なんだか少しだけ、申し訳なくなった。



「えー…と、…ごめん、ね…?」


「ひ…っ、」



疑問形でかけられる言葉。
顔を覗き込まれ、思わず声にならない声を零す。
賢太の制服を強く引くと、こら、と呆れたような声が隣から聞こえた。



「あーっと…。林道、だっけか?」


「あ、うん」



ずっと私に向いていた視線が、賢太に向けらた。
それに少しだけほっとする。
制服の袖を引く力を、少し緩めた。



「ごめんな。こいつ、男が苦手なんだ」


「っあー、そうだったの…?…ごめんね、キキちゃん」



ばつの悪そうな顔をして、軽く謝る林道。
どうして名前で呼ぶんだ。
と、言う突っ込みは入れず、取り敢えず小さく頷いた。

話すのも面倒。
と、言うか怖いんだ。
この視線が。

でも、謝らなくちゃ、いけないかな。
さっき「ひぃっ!」って言っちゃったし。



「…あ、の…、私こそ、すみませ、ん…」



声、上げてしまって。

自分でも驚く程小さな声。
あぁ、こんな声で聞こえるだろうか。



…………聞こえなかったら聞こえなかったと言うことで、まぁいいか。

…と、思っていたら。



「いやいや、無神経な俺が悪かったんだから、キキちゃんは悪くないよ」



ごめんね、そう言って苦笑を浮かべる林道。

……聞こえてたんだ。
少し、驚いた。


 
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