好きだけどさよなら。
第一章
ビルと人で溢れているこの街に、私を知らない人は何人いるんだろう。
私は私を知らない人と、恋をしたい。
タレント“hinata”としてじゃなく、“山城日向”として私を愛してくれる人。
「あ!hinataだっ。」
心臓が大きく脈を打つ。
目の前のビルのモニターには私が映っていた。右手を口に添えて、上目遣いをしている私。
遠くのコンビニのポスターにも、隣にいる女子高生のケータイの待ちうけ画面にも、
“私”の姿があった。
仕事をすっぽかしてもう5日目になる。信用は完全になくなったかもしれない。
ニュースでは、【タレントhinata 体調不良により長期休業!】なんて都合よく報道されてるけど、
今度決まってた連ドラの主演も、出演する予定だったCMも、私の代わりの“誰か”が行っていた。
私を必要とする人なんているのだろうか。