好きだけどさよなら。
-5年前-
「日向、父さん再婚してもいいか?」
当時11歳だった私は単純に嫌だった。
でも、2歳で母が死んでから、ずっと男手一つで私を育ててくれた父の、初めてのお願いだったと思う。
「・・・うん。いいよ。」
「そうか、ありがとう。きっと今までよりずっと楽しくなるぞ!」
父の笑顔を見て、ほっとした。
私、お母さんって呼べばいいのかな?弟や妹が生まれるのかな?学校の友達に変に思われないかな?
その日は不安で眠れなかった。
次の日、家には知らない女の人が居た。
女の人は帰宅した私に気付いたけど、無視した。
「こんにちは・・・。」
小さい声で挨拶して、私はリビングを後にした。
その夜、父が帰宅した途端、あの人は態度を変えた。
「おかえりなさい。さっ日向ちゃんも!ご飯食べよっか!」
「里美、ビール取ってくれないか。」
「はいはい。日向ちゃんは?オレンジジュースでいい?」
「・・・。」
返事をするのをためらった。
「ん?どうした日向?里美が怖いか?」
冗談っぽく笑う父。
「やっだもー!直くんったらやめてよー!そんなこと無いわよねー?」
数時間前とはまるで違う人になっていた。
「あ・・・あははっ里美さん優しい人だよー?さっきも、お父さん帰ってくる前ずーっと喋ってたんだからっ。」
___この日を境に、家は、嘘の自分を演じる場となった。