好きだけどさよなら。

 -5年前-

 「日向、父さん再婚してもいいか?」

 当時11歳だった私は単純に嫌だった。
 でも、2歳で母が死んでから、ずっと男手一つで私を育ててくれた父の、初めてのお願いだったと思う。
 
 「・・・うん。いいよ。」
 
 「そうか、ありがとう。きっと今までよりずっと楽しくなるぞ!」

 父の笑顔を見て、ほっとした。
 私、お母さんって呼べばいいのかな?弟や妹が生まれるのかな?学校の友達に変に思われないかな?
 その日は不安で眠れなかった。


 次の日、家には知らない女の人が居た。
 女の人は帰宅した私に気付いたけど、無視した。

 「こんにちは・・・。」
 小さい声で挨拶して、私はリビングを後にした。

 その夜、父が帰宅した途端、あの人は態度を変えた。

 「おかえりなさい。さっ日向ちゃんも!ご飯食べよっか!」

 「里美、ビール取ってくれないか。」

 「はいはい。日向ちゃんは?オレンジジュースでいい?」

 「・・・。」
 
 返事をするのをためらった。

 「ん?どうした日向?里美が怖いか?」

 冗談っぽく笑う父。
 
 「やっだもー!直くんったらやめてよー!そんなこと無いわよねー?」

 数時間前とはまるで違う人になっていた。
 
 「あ・・・あははっ里美さん優しい人だよー?さっきも、お父さん帰ってくる前ずーっと喋ってたんだからっ。」

 ___この日を境に、家は、嘘の自分を演じる場となった。
 
 


 

< 5 / 7 >

この作品をシェア

pagetop