好きだけどさよなら。
 お父さんがいるときは、あの人も私も、仲の良い親子を演じる。いつの間にか暗黙の了解となったこのやり取り。
 でも、お父さんがいないときは、全く会話がない。
 お父さんが3日間九州に出張に行ったときは、本当に3日間口を聞かなかった。

 そんな生活を始めて、1年が経ち、あの日の夕食で私は一番恐れていたことを耳にした。

 
 「日向、お前お姉ちゃんになるんだぞ!」

 すき焼きを食べているとき、卵を溶かしている私に父が言った。

 「それでね・・・日向ちゃん、もうすぐ中学生でしょ?で、直くんと話し合ったんだど・・・。」
 あの人は何かを言いかけて止めた。

 「俺が言うよ。」
 「え?なーに?」
 わざと、わくわくしてるような表情を浮かべて聞いた。

 「日向、来月からおばあちゃんの家に行かないか?」
 「おばあちゃん・・・?」
 「ほら、昔行っただろ?大阪のおばあちゃんの家。」
 「私、転校するの?そんなの嫌だよ?私ここに居るよ?」

 お父さんが私の肩を持って静かに言った。

 
 「頼む・・・・・・・・・・・この家にお前が邪魔なんだ。」
 「直くんっ!!」

 頭が真っ白になった。
 
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