響け、空に―
孝が死んでから、私は渋谷でスカウトをしてくれた松田プロダクションの山崎さんに連絡した。
結構な日数が経っていたが、山崎さんは笑顔で事務所に迎え入れてくれた。
あの時の会話は、今でも鮮明に覚えている。
「さて、笑美子ちゃん。芸名はどうする?うちの事務所は本人が決めていいことになってるんだけど…」
「実はもう、決めてあるんです。
笑美子はそのままで、名字だけ…高木から若森にします。」
「ん。了解。
…理由とか聞いてもいい?」
「……私には彼氏がいたんです。」
「ああ‼スカウトした時に一緒にいた子?別れちゃったの?」
「その子なんですけど、別れたんじゃなくて…亡くなったんです。」
「…」
山崎さんは黙って聞いてくれていた。
「その子は、手紙を書いてくれていて…。その中に『結婚したかった』ってあったんです。
でも、もう結婚はできない。ならせめて、芸名とかだけでも、結婚した気分になれるようにその子の名字をもらって…」