やくざと執事と私【第3部 下巻:ラブ&マネー】
序章:水島龍一
タッタッタッタ・・・・・・・・タッタッタッタ。
歩いては、立ち止まり、また、歩き出しては、立ち止まる。
すでに100回は繰り返されたであろう。
部屋は、一般家庭では、考えられないほど広く、そして、その中の雰囲気は、信じられないほどの緊張感に包まれていた。
笹山組、組長の執事として、これほどの失態をした事が、過去にあったであろうか・・・。
激烈な後悔に苛まれて、執事こと水島龍一は、何度も部屋の端から端へと繰り返し歩き続けていた。
「・・・・この身で代わることができたら、どんなに幸せか・・・・。」
留置所にいる龍一の見習いのことを思うと、龍一の胸は今にも張り裂けてしまいそうだった。
龍一が、勉強のためにと送り出したことで、まさか、こんな事態になるとは・・・。
龍一にも、想像しえない事態。
「いったい、誰のせいで・・・。」
ふと立ち止まった時に龍一は、無意識に独り言を洩らした。
そして、その独り言を自身の耳で聞いて、頭を否定するように頭を横に振った。
「私は、いったい誰のせいにしようというのか・・・・。これは、他の人のせいではありません。私の愚かな行為が招いた結果。すべての責任は、私にあります。」
自らの体にゆっくりと細い針を埋め込むような痛みを感じながら、自らに言い聞かせる。
「執事見習い・・・いや、小夜さん一人守れないで、何が執事か!」
いきなり叫び声を上げる龍一。
しかし、屋敷中に響き渡ったであろう、その叫びにも関わらず、龍一のいる部屋には、誰も入ってこなかった。
いや、正確には、誰もそんな状態の龍一に近づこうとしなかっただけだが。
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