最果ての月に吠える
前編 僕らの不完全な動物園襲撃計画

第1話 雪原の王者

第1話 雪原の王者





 いつの間にか闇が周囲を侵蝕し始めた。





新月は雲一つないその空で、不敵に微笑んでいる。





息は白く、規則的に宙へと吐き出され、ハロゲン灯の薄明かりを反射する二つの瞳。





それは寒さから檻へ逃れ姿を消したライオンに与えられた、小さなサバンナをじっと見つめている。





時がしばらく続いた冬の落とし物のように、凍り付いている。





そんな静寂を、誰が打ち壊せただろう。





誰にもできないはずだ。





なぜなら、彼女はそこにいなかったのだから。





遠い遠い大陸で、どこまでも続く地平線を眺めていたのだから。





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