最果ての月に吠える
名前を呼ぶ度に車イスを叩く力が増していた。





「大江君、落ち着いて」





トモエさんは一歩踏み出したが足を止めた。





今、彼に触れたら全てが無に帰ってしまう。





13年の月日とトモエさんの願いが。





私は大江先輩の視線を遮るように前に立ち車イスを叩き続ける両手を掴んだ。





「先輩。聞いて」





男性にしては細い腕は予想外の力で私の力では押さえられなかった。





「トモエさんは先輩のために離れていこうとしているの。先輩だってわかってるんでしょ? どうしてわかってあげられないの?」





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