最果ての月に吠える
休むことなく無限に増殖する細胞のように無秩序な群生を続ける校舎の間を駆け抜ける湿気を伴った風が、





ピンクのグロスをたっぷり重ねた唇の隙間から逃げ出した煙を連れ去った。





東京郊外のベッドタウン。





その丘陵の頂上に建設された私の通う大学では、全館禁煙なので喫煙者は屋外に設置された喫煙所で寒い思いをすることになる。





だったら吸わなければいいじゃない。





と友人のカズネはタバコを吸う私に気を遣うことなく言った。





私もそうだと思う。





けれどやめられないのも事実なのだ。





抜け出せない底なしの沼に沈んでいくニコチン依存が、私の足を絡め取り、離さない。





鮮やかな血液が全身を巡り赤黒くなって鼓動を増した心臓へ戻ってくる。





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