ねえ…微香性恋愛、しよ?
曲は、ピアノのレッスンで最近覚えた「白鳥の湖」。華やかな装飾で彩られた、広い応接間。気付けば、この部屋にも麝香の匂いがほのかに香る。
そしてそこには観客として、不気味な笑いをたたえた仮面の男がただ一人。
夢中で弾いた。何も考えたくなかったわ。
止まれば、視界にこの笑いの仮面が目に飛び込んできて、不安と恐怖で押しつぶされそうになるから。
今思えば、七歳の少女の神経で、よくここまで我慢できたものだと思う。
もしかしたら、恐怖とあの笑いの仮面のミスマッチのおかげで、今怖いのかどうかさえ、現実的に感じていなかったのかもしれない。
ただ、このおじさんに、ピアノを弾き終わった後に受けたアプローチには、さすがに心臓が凍る思いがしたわ。-

「え?おじちゃん。やだ、おてて放して!」

「きれいな手…こ、これが、おじちゃんのお嫁さんに、もうすぐなる人の手かあ…」

「!!?」

「言ったじゃない。おじちゃんは、『ましろ』に惚れちゃったって。
キスしようよ、ましろォ…」



「痛っ!な、何で突き飛ばしたんだ、ましろ!あっ、コラ、待て!」
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