ねえ…微香性恋愛、しよ?
掛け布団の中で耳を押さえ、私は必死にその呪いの言葉から身を守っていたわ。
…気付くと、無意識の内に、そのおじさんからもらった、あの匂い袋をかいでいた。妖しくも甘い、匂い。いつしかその匂いに身も心も任せて、すやすやと現実逃避の旅に出ていた。-


「…う~ん、美味しいねえ。仲直りした後の食事が、こんなに美味しいとは。
ねえ、ましろ。」

「う、うん…」

-何て子供って、純真なのか、浅はかなのか。結局私は、そのおじさんの事を許して、次の日の朝、そのおじさんと朝食を共に取っていたの。
でも、味覚が何かおかしかった。余り味を感じなかった。きっと、匂い袋のせいで鼻が「ばか」になっていたからだと思うの。
五感が一つでも欠けると、すべてが現実的では無くなるのかしら。その朝食風景の中に、見えないはずの自分の姿が見えていた。
幻覚を見ている、と言う訳ではなくて、第三者的な視点、つまり、このときの私は、嗅覚が狂う事によって、完全に現実逃避が出来る人間にまで精神のたがが外れてしまっていたのね。
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