ねえ…微香性恋愛、しよ?
さらに翔は続ける。

「いいかい真白?さっき君は、麝香だけは関わりたくはないって言ったね。ところがこの通り、俺が持っていた、おふくろの形見である麝香の匂い袋に、知らず知らずの内に惹きつけられてしまったんだよ。


…たらふく、かいだ強烈な匂い。忘れられる訳がない。
俺の匂い袋はもう、その匂いはほぼ消えてしまっているけれど、それでもいとも簡単にかぎ当ててしまったのさ、君は。」

「…私の恋愛が、あなたの匂いが心地良かったのは、あれだけ嫌悪していた香りが、やはり忘れられないから?
気が遠くなるほど、堕ちてゆける、その匂い、消えかかった匂いを私が実は、何よりも愛しているから?


…やだ、怖いよ、そんな恋愛。」

「…じゃあ、俺と別れるか?あの親父の血と麝香の香りを受け継ぐこの俺と…」

私は、この時見た、様々な感情を押し殺し、恐ろしいまでの無表情を装った翔の顔を、一生忘れる事はないだろう。


私は無意識に、また鼻をクンクンさせていた。
そしてそれを翔がたしなめる。
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