ねえ…微香性恋愛、しよ?
妖しくも甘い、麝香の香り
-今から十年前の、十二月二十日の夕暮れ時、私は自宅の前で、何者かにさらわれた。いきなり後ろから、クロロホルムを染み込ませたハンカチ状の布を鼻と口に押し当てられてね。
気付けば、私はその新聞に掲載されている屋敷の、ある一室に閉じこめられていた。そしてそこには、私以外にもう一人誰かがいた…-

「お、おじちゃん誰?」

「誰だと思う?」

「…こ、怖いよ…こっち来ちゃ駄目!」

-私、思わず泣き出したわ。だってそのおじさんは、冷たい笑いを浮かべた、怪しい仮面を身につけていたんですもの。-

「怖がらなくったっていいのに。ほら、おじちゃんこうやって笑っているでしょ?…だから、お嬢ちゃんも笑ってよ。いつも運動場でヨシミちゃんやカナちゃんと縄跳びや、ボールでお遊びしている時みたいに…」

「おじちゃん、何でそんな事知ってるの?」

「おじちゃん、お嬢ちゃんの事なら、何でも知ってるの、だっておじちゃん、お嬢ちゃんの事が好きなんだもの」

-子供ながらに私、ああ、このまま二度と家に帰れないんだ、って感じて、せめてもの最期の抵抗で、大声で泣こうとしたの。すると…-
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