依存偏愛

「…っ、何すん、」


思いのほか冷たい椎名の指先が、幼いあたしが自ら付けた傷痕をなぞる。

びくり、と肩が揺れた。
あたしと雫以外が傷痕に触れるなんて、許せない。気持ち悪い。吐き気がする。


「……やめ、て。」


高ぶる気持ちを押さえつつ、精一杯紡いだ拒絶の言葉は、自分の声とは思えないほど掠れた。


「……干渉、しない、で。」


震えるあたしの声に異変を覚えたのか、椎名は視線を傷痕からあたしの顔へと移す。

めずらしく椎名の顔に浮かんだ困惑の色に、いい気味だと思ったけれど、そこまであたしの精神状態に余裕はなかったらしい。

…――あああ、ダメだ。
傷痕や誓い、雫のことになるとこんなにも弱くなるなんて。

泣きたくも無いのに訳もわからないまま流れた涙が、音もなくコンクリートへと吸い込まれていく。


「触ら、ないで。あたし達の、誓いに。踏み込ま、ないで。あたし達の、絆に。」


余計なことを、話すな。
そうは思うのに、止まらない。勝手に言葉を紡いだ口が、忌ま忌ましい。

しかも、よりによってこんな奴に。
あたしは何を、してるんだ。
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