依存偏愛

一筋、流れそこなった涙を椎名が掬う。
それをまるで他人事のように感じていれば、ようやく精神状態が正常化してきた。ハッとして掴まれていた手を勢い良く振りほどくと、椎名が困ったように視線を伏せる。


「……すまんかった。」


ぽつり、と零された謝罪は、確かに本心からなのだとわかったけれど。


「何をいまさら。椎名には関係ないって、いつも言ってるのに。」


椎名には関係ないと、干渉は無用だと、何回言ったかわからない。捲られた袖を直しながらそう言えば、椎名はまたぽつりぽつりと言葉を零す。


「関係は、あるき。」

「……何で。」

「…――俺が、おまんを好きだからぜよ。」

「……は?」


でも目の前の椎名が、何を言っているのかはすぐには理解できなかった。
だって、椎名があたしを好きだって?…全く、笑わせる。正気の沙汰とは思えない。


「……あたしは、嫌いだ。」


だからそう言い放って、あたしは椎名に背を向けた。あたしには雫さえ居ればいい。2人で生きていくと雫と誓った。

だからこそあたしは、他の誰からの愛情も求めてはいけない。まぁ別に、求めてもいないのだけれど。





【CHAPTER:05/side*ASAHI/END】
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