依存偏愛
刹那、パシィンッというような乾いた音が、準備室内に響き渡った。
それとほぼ同時に頬へ走った衝撃と、未だ鼓膜を麻痺させる音。畑島さんに頬を打たれたのだと気づくまで、たっぷり5秒。
「……っ、何、すんの?」
「何って?ムカつくから叩いただーけ。文句あんの?」
「あるに決まって…、」
何もしてないのに、文句が無いわけないじゃない。何しろ、私には畑島さんに叩かれる筋合いはない。
でも、しれっとした表情を浮かべる畑島さんに、言い返そうと思った言葉は言葉となる前に口内で霧散した。
というのも、ただ私が畑島さんの睨みというか眼力に、怯んだだけなのだけど。
「いつまでも調子乗ってんじゃねーよ、無能な腰ぎんちゃくが。」
最後にそう言い捨てられた言葉が、思いのほか胸に突き刺さる。今までは別に、旭ちゃんと較べられることも嫌じゃなかったのに。
むしろ、私の目標である旭ちゃんと較べられることが、嬉しかったのに。
今、畑島さんに言われた“無能な腰ぎんちゃく”っていうのは、どうしても辛かった。それもこれもきっと、旭ちゃんが傍に居ないから。較べられることで、旭ちゃんの存在を痛いほど思い出してしまうから。