依存偏愛
「私は大谷くんに、酷いことをしたし、言ったりもしたでしょう?」
思いのほか掠れた声での問いかけに、大谷くんは哀しそうな瞳を私に向けたまま、呆れたように肩を竦める。
そしてゆっくり口角を上げた後、いつにも増して優しい声色で、言葉を紡いだ。
「彼氏、とかどうとか、今はあんまり良くわかんないんです。確かにあの日、少なからず哀しかったですし。」
「…っ、じゃあ、何で、」
「泣いてる人を放っておけるほど、残酷にはなれないみたいです、オレ。」
ふわり、まるでそんな効果音がつきそうな笑みで、大谷くんは顔を綻ばせる。
ゆっくりと伸びてきた手が頬に触れ、そしてそのまま躊躇うことなく私の右手を握りしめた。
…――あああ。馬鹿だよ大谷くん、きみは。
こんな私に、手を差し延べるなんて。
どうしようもない自己嫌悪に苛まれながら、大谷くんに手を引かれるように校門を抜ける。
ぽたり、ぽたり――…
訳のわからない涙は、未だ流れ続けるけれど。手から伝わる温もりに、少しだけその意味を理解できたような気がした。