依存偏愛

「雫、何で……?」


離れていく背中を、追い掛けることはできなかった。大声を出して、呼び止めることさえできなかった。


「何で、」


2人でなら生きていけると、2人なら信じられると、お互いだけを信じると、そう言っていたはず。

それなのに今、雫の隣に居るのはあたしではない。

いつから、こんなことになっていたんだろう。あたしが恐れずにもっと早く何かをしてれば、何かが変わったのだろうか。変えることが、できたのだろうか。

訳がわからなくて、悔しくて、哀しくて。どうしようもない喪失感が胸を満たす。しだいに込み上げてくるものを、堪えることなどできなかった。

ぽたり、音もなく地面に吸い込まれ、無機質なコンクリートを濡らす涙。次から次から溢れてきて、潤む視界がウザい。

でもそんな中、不意に視界が遮られた。背中や肩から伝わって来る温もりに、椎名に抱きしめられたのだと気づくまでおよそ3秒。


「……放してよ、馬鹿。」

「馬鹿はおまんぜよ。裏切られたんは、結局おまんじゃき。」


…――裏切ら、れた……?

そうか。裏切られたのか、あたしは。
< 133 / 212 >

この作品をシェア

pagetop