依存偏愛

「無理。何されるかわかんないし、帰る。」

「信用、ないんじゃのう。」

「あんたのどこをどう見て信用しろと?」

「まぁ、それもそうじゃな。」


そうだよ。椎名は、信用できない。
あたしはずっとそう、思ってきたんだ。

あからさまなあたしの態度を前に乾いた苦笑を零して、椎名は口を閉ざす。
全く笑っていない椎名の瞳があたしに向けられているのに気づき、気まずくなって視線を反らした。

どちらも口を開かないために生じる沈黙が、静かにゆっくりとあたし達を包み込んでいく。

その沈黙のせいで、つい数時間前の光景が鮮明に蘇ってきた。考える必要の無いことまで考えてしまって、それが余計に思考を乱す。

サクと手を繋いでいた雫の姿が、あたしに気付くことなく遠ざかる雫の背中が、脳裏に焼き付いて離れない。

2人で生きていくと、他の誰をも信じないと、あたしと雫は誓ったはずだったのに。

落ち着きかけていた混乱が、また、とどまることなく押し寄せる。
あたしは本当に裏切られたのかと、何度も何度も自問自答したけれど、当然答えなんて返ってこない。そのことが一層、あたしの混乱に拍車をかけた。
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