依存偏愛
一体、何だというんだ。
振り向かずそのまま耳を傾ければ、相変わらず低い声が鼓膜を刺激する。
「お前ら、何かあったのか?」
「……、は?」
何、か……?
神部がさしているのは、間違いなくあたしと雫のことであると、それはすぐに察したけれど。
何で神部がそれを聞いてくるの。
神部には関係ない。故に、知る意味も必要も無い。
けれど、強い視線が背中を射抜いているのを感じる。真剣な切れ長の瞳があたしを捉えているのを、容易に想像できた。
「何も無い。仮にあったとしても、神部には言わない。」
「…、そうかよ。けど、」
「そんな心配するくらいなら、あんたは自分の後輩をしっかりと見張ってなよ。」
あたしと雫の絆を、誰も壊さないように。
たとえそれがサクであったとしても、あたしは許せないから。
お互い変な気持ちを抱かないように、神部が見張ってくれてれば良かったのに。
意味を咀嚼できていないであろう神部を残し、あたしは体育館へと戻った。