依存偏愛
悲しげに見える雫の表情に、胸が痛む。痛むけれど声をかけてあげられないのは、あたしと雫との間に確執があるから。
まぁもっとも、それを感じているのはあたしだけなのかもしれないけれど。
「……旭ちゃん、今、ちょっといい?」
時間は、ある。
あるけど、話したくない。向き合いたくない。
でも、今にも泣きそうな顔をした雫を完璧に拒絶することもできず、無言で顔を背けた。はっきりできない自分自身が、心底嫌になる。
嫌な沈黙が広がっていく中、気まずさだけが場を蝕んでいく。何か言わなきゃと思うのに言葉にならず、ごくりと唾を飲み込んだ。
…――刹那、
「旭、行くぜよ。」
いつの間に起きていたのか、なんて、そんなこと今はどうでもよくて。
ぎゅっと強く掴まれた右手を引かれるまま、雫の隣を通り過ぎる。
「旭ちゃん、」
小さく呟かれたあたしの名前が、閉まるドアの向こう、嫌に耳に残った。
【CHAPTER:08/side*ASAHI/END】