依存偏愛
「頑張ったな。」


ぽつりとそうこぼしたと同時に、頬に触れていた手はあたしの右手を優しく握る。頑張ったなって何、とか思ったけれど、何故かレアな優しい笑顔も直視できなくなって、不覚にも一瞬、ドクンと胸が鳴った気がした。


「……少し、付き合ってほしいきに。」


そしてあたしの返事を聞くことなく、椎名はゆっくりと歩きだす。



◆◆◆



何も話さず、椎名に手を引かれるがまま連れて来られたのは、何のことはない藤宮大附属の屋上だった。

茜色に染まった空が、景色までも赤く染めていく屋上で、休日にこんな簡単に出入りできるセキュリティは大丈夫なのかと、そんなどうでもいいことを考えている自分に自嘲した。


「旭。」


そんなおり、不意につながれていた手が離れる。逆光であまりよく見えないけれど、椎名があたしを見ていることだけは明らかだった。
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