依存偏愛
けれど10歳のある日、雫が泣きながらあたしの家まで来た。雫のお気に入りの白いブラウスは真っ赤に染まり、顔は涙でぐちゃぐちゃ。一目見て、何かあったのだとわかる様相だった。
そして見せられた右腕に走る、痛々しくて、生々しい十字の切り傷。
雫が父に暴力を振るわれていたのは知っていたけれど、こんなことは初めてだった。
「あーちゃん、」
「泣かないで、雫。」
泣く雫を前にして、沸き上がるのは怒り。
ただ、許せなかった。
雫を傷つけて泣かした父親が。
雫を守れなかった、あたし自身が。
だからあたしは手当をして雫を落ち着かせた後、長らく使われていないキッチンから包丁を探し出し、自らの右腕の雫が切られたのと同じ箇所に、その包丁を突き刺した。
「…っ!あーちゃん!?」
「……大丈夫。これでほら、雫だけが痛い思いしなくて済む。」
痛みを、共有するために。