依存偏愛
「……何しに、来たの。」
「何しにって。ただ、ここは帰り道じゃき。体育館から出るには、ここを通らないかんぜよ。」
「……」
言われてみれば、そうだ。
必然的に通らなければいけないここに、椎名が来たのは当たり前なことであり、問い掛けたって仕方ない。
…――余計なこと、言っちゃったな。
あたしがそう後悔すると同時に、あたしの心情を察することなく……否、気にすることなく、椎名は横からあたしを覗き込んで来る。
そして、
「また無視かえ?…―っ!」
「ちょっ!?」
何を思ったのだろう、何かに気づいたらしい椎名は、発していた言葉もそのままに、あたしの右手を掴み上げた。
そのはずみで持っていたボトルが手から落ち、水かドリンクかわからない液体が周辺に弾ける。
訳がわからないまま椎名を睨みつければ、彼の視線がある一点を凝視していることに気がついて。
そこでようやく、理解した。気がついた。
椎名が目敏く見つけたのは、あまりにも異様な、あたしの右腕にある十字の傷痕であるということに。