依存偏愛

「おまん、これ……」

「……っ、離せっ!」

「…――っ!」


椎名が何か言おうとするのより早く、あたしの空いている左手が椎名のみぞおちにパンチを叩き込む。

一瞬緩んだその隙に腕を抜けば、たった今パンチがめり込んだ腹を押さえながら、何とも言えない表情で椎名があたしに視線を向けていた。


「いきなり、腹にパンチは、酷いんじゃ、なか?」

「セクハラ、するのが悪い。」

「セクハラとは、違うきに。」


全然、違わない。
あたしは別に、酷くもない。
……多少、冷静さを欠いてしまったのは否めないけれど。

だいたい、元凶は椎名だし。
椎名があたしと雫の誓いの傷痕を、無理矢理見るからいけないんだ。

…――椎名に、見られた?

そう思うや否や、途端に込み上げる不安。今まで誰にも見せたことの無い傷を、椎名に見られた。どうしよう。

でも冷静に考え、別に隠し事ではないと自分を納得させる。第一、あたしの傷痕を椎名に見られたぐらいで、そんなに神経質になる必要は無いのだ。

どうせ他人に、この傷痕が意味することも、出来事も、交わした誓いも、わかるはずが無いのだから。





【CHAPTER:01/side*ASAHI/END】
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