依存偏愛

暗い廊下を、壁を伝いながら進む。落ちないよう慎重に階段を下り、静まり返った1階に到着。

思ったより1階は明るく、不思議に思って高めの窓を見上げれば、真ん丸い月が夜の闇を優しく照らしていて。

――予定、変更。

本当はロビーの椅子でしばらく過ごす予定だったけれど、その足を中庭へと向けた。

中庭といっても、本当に小さい。
観葉植物が少しと、小さな花壇、真ん中に白いベンチがあるだけ。
まぁ、ただの宿舎にそんなものがあるだけ、すごいとは思うのだけれど。

曇りガラスのドアを開けると、夜特有の冷気が身体を包み込む。深夜ともあって、余計寒さが芯にしみる。昔から、寒いのは苦手だ。

やっぱり引き返そうかと迷いつつ、結局身震いしながらも段差を下りる。

すると、視界に映る人影。
あまり視力がよくないのもあって、ここからじゃ誰なのかはわからないけれど、ベンチには確かに誰かがいる。

でも、こんな時間に?
同じような自分のことは棚に上げ、その怪しさに身構えながら近づいていく。

その誰かもあたしの足音に気がついたのか、ゆっくりとあたしの方へと振り向いた。目を細めてその人物を確認すれば、あたしが判別するより早く相手が先に口を開く。
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