依存偏愛
きっと大谷は優しいのだろう、誰よりも。
実際、頼まれ事を大谷が断る姿を見たことはなかった。まあそれは、あたしと雫が中等部の頃からわかってたことだけど。
膝に肘を付け、前屈みに俯く優しい彼の頭を、くしゃり、と軽く撫でた。
「な…っ!どうしたんですか、いきなり!」
「……可愛い。」
「え?別にオレ、可愛いくないですから!そんなこと言うなんて、片倉先輩らしくないですよ!」
そんなの、自分が1番わかってる。
らしくないのも、こういうのが似合わないのも。
「それは知ってるけど。……あ、そろそろあたし戻る。」
だからそう言って、あたしは立ち上がった。振り向けば、あたしを見上げる大谷と視線がぶつかる。
「あ、はい!何か、オレばっかりぺらぺら喋ってすみません。」
するとそう言って何故か立ち上がり、大谷は直角に腰を折るように頭を下げた。でも別にそんなこと、そんなふうに謝らなくたっていいのに。
「いいよ、気にしない。……じゃあ、また明日。」
だから小さく笑って、軽く右手をあげた。そして早く中へ戻ろうと歩き始めれば、「片倉先輩っ!」とあたしを呼ぶ大きな声が鼓膜を刺激した。