依存偏愛

「……言った?」

「ん?」

「誰かに、それ、言った?」


別に、隠し事ではないんだ。
確かに椎名に知られたこと自体に動揺はしたけれど、だからって椎名が、それを誰かに話そうが話さなかろうが別段支障はない。

それでも一応問いかけてみたあたしに、椎名はさらりと言い放つ。


「誰にも言うとらんき。人様の秘密をペラペラ喋るほど、悪趣味じゃなか。」


…――何よ、それ。
人様の秘密を探る方が、よっぽど悪趣味だと思うけど。

何も言い返さずただ睨みつけるだけのあたしに、椎名は表情ひとつ変えずに続ける。


「だけんど、双子だと知ったせいで余計気になるんじゃ。」

「……何が。」

「おまんと笹川の腕に走る、同じ傷痕の理由がぜよ。」


傷痕の、理由――…
あたしと雫の、誓いの証。
それこそ、誰にも言うことのない秘密だ。椎名になんか、絶対。


「あんたに、知る意味も必要もない。」


だからそう言い捨て、今度こそ振り返ることなく屋上を出る。急に薄暗くなった視界の中、背後でドアが閉まる重たい音が虚しく響いた。
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