依存偏愛
「大谷!吉沢!」
「はいっ!」
中等部の顧問に呼ばれるがまま、高等部の選抜メンバーの前に並ぶ2人。
けれど、合宿中の旭ちゃんと大谷くんの会話を急に思い出して、大谷くんの顔を見ることができなかった。
“旭先輩”
“サク”
名前は、特別なんじゃなかった?
旭ちゃんにとって、大谷くんはどんな存在なの?
何でいきなり、名前で呼び合っていたの?
「―――ということで、走り込みの後、パス練だ。神部、笹川、頼んだぞ。」
「わかりました。」
「……あぁ、はい。」
あああ、ダメだ。
もやもやした感情が、胸の中で疼く。
他人の話なんて、これっぽっちも耳に入らない。部活なんて、やってる気分じゃない。
聞きたいのに、聞けない。
勇気がないのはもちろん、私はただ怖かった。旭ちゃんが私から離れていきそうで、大谷くんにとられてしまいそうで。
だからこそ旭ちゃんの言葉さえ、聞かないようにごまかしてきたんだ。合宿が終わったあの日から。
ただ、旭ちゃんの口から事実を聞くのが怖いの。例えそれが、私の杞憂だったとしても。