依存偏愛

そう、昔から。
昔から優しかったんだ、彼は。


「笹川先、」

「……ねぇ、大谷くん?」

「あ、はい。何ですか?」

「ちょっとね、聞きたいことがあるんだけど、今時間ないし、部活終わった後、高等部の体育館裏まで来てくれる?」


だったら、その優しさを利用してしまえばいいじゃないか。ふと思いついた内容に、全く罪悪感をいだかなかった訳ではないけれど。

小首を傾げてそう問いかけた私に大谷くんは一瞬、訳がわからないとでもいうように眉をひそめた。

でもすぐにいつもの笑みを浮かべると、「いいですよ。」と短く答え、体育館へと足を向けた。

ひとりその場にぽつんと残されたまま、私は部活後に思いを馳せる。

とりあえず、旭ちゃんに聞けなかったことを大谷くんに聞いてみよう。
そしてその答えによっては、彼の優しさを利用させてもらって……。

どんな手段も厭わない。
今の私はただ、旭ちゃんを手元から失う恐怖だけに支配されていた。
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