依存偏愛
「……ねぇ、片倉さん。」
数秒後、そんな沈黙を壊したのは結城だった。高校2年の男子にしては若干高めの声が、青い空間に響く。
「……何。」
「俺を誰だと思って、振り返ったの?」
「え?」
「すごく、怖い顔してたから。」
怖い、顔……?
そりゃあ、そうだろう。だってあたしは、てっきり椎名だと思って振り返ったのだから。
「美人の怖い顔って、迫力あるよね。」
「……ふざけてんの?」
「ははっ、違うよ。ごめんね。」
椎名同様、結城もやっぱり苦手だ。
何なの、本当に。
何だか無性にムカついて、左隣にいる結城から視線を思いきり外し、右側の空を眺める。するとそこには、まるでポニーのような雲がゆっくりと流れていた。
「……椎名、かい?」
刹那、鼓膜を震わせたムカつく名前に反射的に結城へと顔を向ける。同時に、さっき同様柔らかな笑みを浮かべている結城と、見事に視線が絡んだ。
「椎名が来るとでも、思ってたんだろ?」
そして淡々と、紡ぎだされる言葉。
あまりにも確信的な声色に、違う、とは否定できずに言葉が詰まる。