心霊旅館 焔-ホムラー

「サクラ、どうした?」


過去を思い出していたサクラは、ホロウの呼びかけで我に返った。

外は、いつの間にか土砂降りの雨が降っている。


「いや……何でもない」


過去を振り払うように、サクラは2、3度頭を振った。


「サクラ……」


窓を背にした少女の魔神は、親指で外を指し示す。


「誰か来たみたいだぞ」


ホロウの言葉に窓の外を見ると、雨の中を必死に走ってくる男女の姿があった。


「4人いるな……」


サクラはつぶやく。


「いまさら怖じけ付いたのか?」

「まさか」


ニヤリと笑うホロウに、サクラは軽く笑って見せた。


「8年も待ったんだ」


ホロウの出した条件――

彩と杞々巴を失ったあの場所で、4人の命を炎に捧げる。

そして、それは同日に行わなくてはならない。

4人の命を同じ日に奪う――

その条件を満たす為には、皮肉にもサクラ自身が宿を営むしかなかった。

サクラはあの土地を買い、全焼した建物にかわり洋館を建てた。


「ここまで来るのに、8年もかかったんだ……今の俺に迷いはない」

「ククク……」


含み笑いをするホロウを後目に、サクラは立ち上がる。

そして、掛かっていたジャケットを無造作に掴んだ。

そのポケットから、何かがフワリと落ちる。

サクラはそっと拾い上げると、しばしの間それに目を落とした。


(彩……杞々巴……もうすぐだ……)


やがて、それを丁寧に机の上に置くと、サクラは前を向く。


「行くぞ!」

「ククク……」


扉から出ていくサクラの後を、宙を滑るようにホロウがついて行く。



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