新パラレルワールド参加作品=The shadows=天才浅海ユウと凡才月星大豆の奇跡的コラボ[企画]

「リュウさん帰ってきたの?」


 テントの中から明るい声がした。飛び出して来るなり、タープの網をくぐろううと身を屈めている。


「開けるなあっ!」


 かろうじてまだ声帯を震わせることが出来た。


こちらを見たフウカの、大きな瞳がみるみる凍りつく。


俺に入り込む影を、彼女が目の当たりにしたのだと悟った。


「きゃぁぁぁぁぁッ!」


 悲鳴を聞きながら俺は、ガックリと両膝から地面に落ちる。


「リュウさんっ、リュウさんッ!」


 身体が倒れてしまう寸前に、駆け付けたフウカの手が俺の肩を支えた。


「駄目……だ離……れ……て……」


 怒鳴ったはずの声は、信じられない程小さく掠れていた。


俺の重さを支え切れなくなったフウカは、俺と一緒に横倒しになる。


「逃げ……ろ。フウカ……まで……喰われる……」


 しがみ付いてくる柔らかな体を、必死で引き離そうとしたが、ガクガクと震える俺の体は既に黒褐色にまで変色し、手足の自由は完全に奪われていた。


俺の首に回した彼女の腕にギュッと力が入る。


「リュウさん……。ひとりにしないで……」


 身体の芯から耐え難い程冷たくなっていく皮膚に、温かなフウカの頬と涙を感じる。


視界が狭まってきて、彼女を見ることが出来ない。


───フウ……カ───


 とうとう、全身が麻痺して、全く動かなくなった。


 俺は影に支配されていくという苦痛よりも、愛しい人に優しく抱き締められる心地良さに包まれていて……。


もう望みはひとつしかなかった。


───このまま眠りたい───



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