4 X’mas story
「でも、ルチアはユルネクを愛していた。だからオレは言ったんだ。
無駄な枝葉をとるといいって」

「……それで彼女は?」

「最初は不安そうだったよ。
自分が治療をしなくなったら、街の人々はどうするのかって。
それでもオレは言い続けた。
ケーキの上のイチゴがなくなれば桃がケーキの上にのる。もしかしたらメロンかもしれない。そのケーキがおいしければ、イチゴはジャムになれるし、桃やメロンは自分もケーキの上にのれることを喜ぶかもしれない。でも一度、イチゴがケーキから離れないと、それはわからない。
君が今いる場所を離れれば、代わりの誰かがその場所にくる、と」

パリン、と、ウェイトレスがグラスを落として割った音が一瞬話を遮った。

思わずそれてしまった注意を彼女が申し訳なさそうに下げた頭からを男へと戻した。

「どうも例えが独特だな」

「受け売りだよ。それで彼女は、人が変わったように、ユルネクの看病と病気の研究に努めるようになった。
最初は街の人のルチアへの視線も冷たいものがあった。
でも、いつのまにかルチアのほかに、医学を心得る若者がでてきたんだ。
未熟だったかもしれないが、少しずつ彼らは増えていった。
そして、彼女は病気の薬を調合し、ユルネクは快復へと向かい、国の医療も人手が増えて、目覚ましく発展したってわけさ」
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