4 X’mas story
大きなため息をつくと彼は天を仰ぐようなそぶりを見せ、カウンターにつっぷした。

「ついてないんだよ。オレはさ。
最初に恋心を抱いたのは、店にケーキを買いに来る、そりゃもう素敵な女性がいたんだよ。
でも彼女は結婚してたんだ。
そこまでならまだいい。
彼女が夫と別れて、オレにもチャンスが来たと思った。
そしたらさ、何があったと思う?
うちのパティシェと良い感じになってんのよ」

私は黙ってうなずいていた。

「もう店に行くたびに切ない気持ちになるよね。
そこにさっきの女神のような美女が現れたと思ったわけさ。
彼女がいつ街にくるかわからないもんだから、店がちょっと暇になったりしたら、よく休憩室に入るふりをして街に出て彼女に声をかけてた。
いや、オレだってバカじゃないから、うちのパティシェとティナが店で、あぁティナってのは、ケーキ屋にくる旦那がいた女のことで」

なんとなく分かってはいたが一瞬私が浮かべた「ティナって誰だ」という表情を察したのだろう。

「そこそこ気は利くと思うさ。
店であの二人がいい雰囲気になるんだったら、そりゃいない方がいいだろうし。
あるときはクリスマスの二人のデートのために子守りまでしたよ。
まぁ別に小さい子どもは好きだからいいんだけどな。
確かアイナっていったっけ。母親に似て美人だった」
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