ナイフ
誓いあったあの日から、約一年半の月日が経った。
女はひたすら一途に男との約束の日を夢見たが、
男は偶然村で出逢った農家の娘と恋に落ち、今まさに幸せを築こうとしていた。
誓いもナイフも、今や男の頭のどこを探しても見つかりそうにない。
女はひたすら思い続けた。
男はただただ幸せだった。
やがて約束の時が訪れた。
女が目とナイフを輝かせ、一本杉の下で待っていることも知らずに、男は農家の娘を嫁に貰い、毎日の幸せを噛みしめていた。
男の部屋の片隅にある忘れ去られたナイフは、すっかり錆びていた。
女は一歩も動かなかった。すれ違いを恐れたからだ。
一刻も早く逢いたい気持ちが、女の全てを支配していた。
しかし男は現れなかった。
その日が終わりを告げても、女は動かなかった。