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「……コーヒー。こぼすなよ」
「うん」
「あと、ケーキに絵の具飛ばすなね」
「だいじょうぶ」
抑揚のない返事をしながら、メグルはベッドから降りる。
画用紙の上に裸足で載り、右手に持った筆を絵の具につける。
赤い絵の具を吸い込んだ筆先が、画用紙に触れたその瞬間から、そこはもうメグルの世界だ。
何を描いているのか、俺にはまったく予想がつかない。
ただ、赤色、青色、黄色、緑色、そんな数えきれないほどの色たちが、画用紙を彩っていくことだけしかわからない。
今日買った白い絵の具は、いまだパレットにさえ出ていなかった。
メグルは今、どんな世界を見ているんだろう。
見てみたいとは思わない、なんて言ったらそれは嘘だ。
けれど今、メグルの世界を俺が見られたとしても、きっと何ひとつわからない。
色とりどりの無限な世界に、ただ取り残されるだけなのだ。