翼を失くした天使の羽音
「どうして――…っ」

この人は、気づいたんだろう?


誰も気づかない、こんな些細な事に――。



『強がらないで……頑張らないで……僕は彩人じゃないし。大丈夫だよ』



――強がらないで。
――頑張らないで。
――大丈夫だよ。



それは、今のわたしには、世界一優しい言葉。

たちまち、わたしの凍りついていた心を溶かして……。


同時に、ぽろぽろ。



「ふ……ぇ……っ」


涙腺までも、溶かしてくれた。



『神崎さん、何も言わないで……聞いていて』


耳元に響く、柔らかな声。



溢れ出した涙で、言葉にならないわたしを気遣かってる。



――何も言わないで、泣いててもいいよ。


そう聞こえた気がして――また涙が溢れた。


< 101 / 190 >

この作品をシェア

pagetop