翼を失くした天使の羽音
放課後。


わたしは1人、図書室で本を借りて、何気なく奥の窓に目をやると、

あの銀杏の木が見えて、自然に足が向かってた。



「よかった……誰もいない……」


わたしは、銀杏の木に寄り掛かって目を閉じた。



ここは、わたしにとって特別な場所――。



奏子ちゃんと、友達になった場所で――。

天人くんに告白して、フラれた場所で――。

彩人くんの本心を、聞いた場所で――。


そして、春から夏の終わりまで、わたしの唯一の居場所でもあった場所。




その時――。


「ゆんちぃ?」

聞き覚えのある声がした。



ドクンっ。
声だけで、誰だか分かる……。



1番会いたくて、1番会いたくない相手。



「彩人くん――」


どうしよう……顔、見れないよ……。



「弱音……吐きにきた」



「え?」


彩人くんの、その言葉が、悲しい声が、

躊躇していた、わたしの心を動かした。



「久しぶりっ」

わたしは目を開けて、明るい声で、彩人くんの顔を見た。


「やっと目を見てくれた」

彩人くんが、寂しげに微笑んだ。


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